情報デザインI 2025 授業を担当しての記録
筑波大学 情報学群 情報メディア創成学類開講の「情報デザインI(GC24101)」で、ティーチング・フェロー(TF)として授業を担当しました。
全10回中3回(75分×2コマ×3回)の企画と実施、また2回のレポート課題の設計を行いました。担当最終回で受講生に配布したアンケートでは、⭐️4.6の評価を得ることができました。
💡 ねらい
学類が定めるこの授業の概要と到達目標は、以下のようになっています。
グラフィックデザイン手法を用いた情報デザイン表現は、多様な情報を発信していくための重要な手段の一つである。 本講義では、ビジュアルコミュニケーションデザインの視点からグラフィックデザイン手法について学ぶ。 特に表現要素を中心とし、タイポグラフィー、色彩、バランス、レイアウト、リズム、パターンなど、グラフィカルな情報表現を体験することで、 これからのコンテンツ制作活動に応用できるようになる。
身近なコンテンツがどのようなデザインプロセスで作られているのかを知り、表現手法が説明できるようになる。 芸術・デザインの知見から表現上のポイントを考え、コミュニケーションデザインへの根本的な見方を獲得することで表現に対する議論ができるようになる。
一方でこの授業は、情報メディア創成学類(mast)におけるアート・デザインリテラシーの下支え的な位置づけにあります。プロダクト・映像・現代美術などの分野で自主制作をする人が一定数いるmast生にとって、手を動かしてモノを作る・発表すること、その裏側にある美学や芸術学の概論について学べるのが「情報デザインI」だと言えるでしょう。
そしてさらに、稲田がこの授業と学類の体験を経て、アーティストやデザイナーとして活動するようになった人間であるというのも注目すべき点です。芸術分野において、mastのこれが役に立った!これがもっと欲しかった!といったことを実体験として持っている人が授業に携わるのは、またとない面白い展開ではないでしょうか。
以上のようなことを踏まえ今回は、授業が想定する「情報デザイン」を多少拡張しつつも、
- クリエイティブに携わるにあたり、知っておくべきことはなにか?できることはなにか?
という切り口から、
- 特に稲田の制作・展示や博物館にまつわる経験をもとに
- (主担当の)金先生が扱う、美学やグラフィックの実技的な題材を避けながら
- 学生に近い目線で
述べられることを題材に構成しました。
📔 各回の内容
全10回中担当回は3回でした。時間をかける課題を出すことを当初から想定していたので、担当回を第2回・第5回・第8回とバラして設定するとともに、すべての課題を初回のオリエンテーションで予告しました。
(第2回)メディアアート分野における作品制作の実際
自己紹介を兼ねて、最近取り組んでいるものについて、美術作品・教育・コミッション(映像)の3つに分けて紹介しました。
また、このような活動に至るまでのさまざまな取り組みやきっかけの紹介を通じて、メディアアートや現代美術の分野の慣習や現状について言及しました。
(第2回)実空間での展示デザイン技術
実空間で行われる展示について、作品発表のために必要な技術、あるいは対象物の魅力や特徴を伝えるための「デザイン」と位置づけ、以下のようなことがらを扱いました。
- さまざまな展示のあり方
- 博物館・ギャラリー・商業施設……
- 展示づくりに関わる技術
- 展示施工の例として、額装作品の壁への取り付け(ドッコ掛け)の実演をしました。(講義室に響くインパクトドライバーの音……)
- 展示を見学する際、どのようなことに着目するのか
- 展示を見て生じた印象や感動は、どのような要素で成り立っているのだろう?
課題: 展示を見学し、工夫や仕組みを観察して報告する
第2回の授業の最後に、実際になんらかの展示を見学する課題を出題しました。
なにか「展示」を見学し、そこに込められた工夫や仕組みを観察して、報告してください。
- 「展示」は美術館・博物館・ギャラリー・店舗ディスプレイなど、広い範囲で捉えることができます。ただし、あまりに小規模なところに行くと観察するところも少ないかもしれません……
- 展示内容の分野は問いません。自分が興味のあるものを選んで構いません。(稲田は現代美術やメディアアートが専門なので、近い分野だと話が弾みます)
- 提出方法
- スライドを作成して提出してください。
- 「どんな展示か」「どんな工夫があったか」「どのような技術があったか」などについて記載してください。意図や技術の詳細はわからないことや推測が含まれても大丈夫です。
- 11/5の授業で、他の人と情報交換をします。自分がどのような展示に行ってきたか話す際に使いたい写真があるとよいでしょう。
- 以下にサンプルを用意したので、確認してみてください。
💡 参考として提供した、稲田が気になっていた開催中の展示のリスト
- 森美術館(六本木) 藤本壮介の建築:原初・未来・森 〜11/9(建築)
- アーティゾン美術館(京橋・東京駅) ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着 10/11〜1/12(現代美術・映像・写真)
- 東京都現代美術館(木場・清澄白河) 日常のコレオ/笹本晃 ラボラトリー/開館30周年コレクション展 〜11/24(現代美術)
- 東京国立博物館(上野)特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」/東博コレクション展 〜特別展は11/30(仏教美術)、東博コレクション点は常設
- 国立科学博物館(上野)特別展 学習まんがのヒミツ/常設展 特別展は10/10〜11/9(教育・科学技術)
- 東京国立近代美術館(水道橋・神田・竹橋) コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ/所蔵作品展 〜10/26(近代美術)
- 国立新美術館(乃木坂・六本木) 時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010 〜12/8(現代美術)
- インターメディアテク(東京駅)常設展示『ギメ・ルーム – 驚異の小部屋』ほか多数 (総合・メディア)
3週間後の授業(第5回)で、4人程度のグループを自由に作ってもらい、相互に見てきたものの報告を行いました。40分ほど盛り上がったのち、稲田が見ていて気になったものをピックアップして内容を聞いたり、解説を入れたりという時間を設けました。
(第5回)魅力あるデザイン制作のための観察と分析
展示や(金先生の扱う)視覚メディアを使ったデザインを体験するにつれ、その過程で対象物のどのような側面を切り取って見せるべきなのかが気になり始めます。ここでは、対象物の魅力を、とくに「ことば」を使って言語化することを念頭に、以下のようなことを扱いました。
- 優れた言語化の特徴とはなにか?
- 映画のキャッチコピー・博物館の解説文・美術家のステートメント等を題材に
- デザインのための言語化の実践
- 作品を鑑賞したときの感想を、詳細かつ具体的にするためのメソッド
- さらに、デザイン対象を「自分自身」に転換し、自身の興味や経験から個性の拠り所を探るためのメソッド を検討した。
課題: 好きなコンテンツや作品をコレクションし、解説する
第5回の授業の最後には、「受講者それぞれが好きなコンテンツ・作品をコレクションし、なんらかの共通性を軸に解説する」課題を出しました。
自分が好きなコンテンツや作品をコレクションし、そこから3作品を選んで、各作品とそれらの共通点について解説してください。
- 「コンテンツや作品」のジャンルは問いません。ただし、前回と同様にグループでディスカッションをするので、その際に見せやすいものが良いでしょう。
- 解説は授業で取り上げたように、なるべく具体的に、優しい語彙で、簡潔にすることを目指してください。
- 提出方法
- スライドを作成して提出してください。
- コレクションのタイトルと解説、各作品の解説を掲載してください。
- 12/2の授業で、他の人と情報交換をします。話す際に使いたい写真があるとよいでしょう。
- 以下にサンプルを用意したので、確認してみてください。
💡 参考として提供した、解説の書き方と作品集めのコツ
- 簡潔に読めることを第一に心がけると良いものができるのではないかと思います。
- 実際に授業で見せるときのことを考えておくとよいかもしれません。 相手が全く興味のない作品を集中して見てもらうのは、思いのほか難しいものです。
- 稲田の感覚ですが、たとえば映像作品であったとして、全く知らない作品を紹介のために見せるのは30秒~1分(意外と短い!)が限界ではないかと思っています。
- 自分の好きな作品は往々にしてたくさん喋ってしまいがちですが、そのことに自覚的になり、思い切って要素を削ると、結果として良いものになることが多いように思います。
- 作品にすべて目を通さなくても内容がわかるよう、解説文に内容のあらましを含めるのもおすすめです。
- 好きな作品を集めるときは、なるべく時間をかけるのがおすすめです。日常生活の中でふと出会ったり、ふと思い出したりする作品を忘れずメモっておいてあとで見返すと、とてもよいリストができると思います。
ふたたび3週間空けた第8回では、前回の課題と同様にグループで共有をし、いくつかをピックアップして紹介しました。また、その後の応用として、
- 作品や展示を、ことばに起こして記録することの意義
- ことばそのものをデザインする
ことについて取り上げました。
💻️ スライド: 魅力あるデザイン制作のための観察と分析(課題)
(第8回)コンテンツを生み出すためのスタディ
ここまでで取り扱った一連の流れを振り返りながら、クリエイティブでなにかを生み出すために必要なインプット(経験)について扱いました。
- インプットを増やし、アウトプットの質を高めるために必要なこと
- 幅広いものにアクセスする
- 好きなものに敏感になる
- 時間をきちんと取る
- 成果物を得るために必要なインプットの分量
- アウトプットを得るまでにボツになる試作品・アイデアを加味してインプットに当たる必要がある
余談: 博物館・美術館を巡るお金の話
第5回〜第8回の開講日の間にちょうど、DIC川村記念美術館の所蔵品の売却やTOHAKU OPEN PARK PROJECTの発表など、博物館・美術館における資産活用の話題が相次ぎました。せっかくなので、博物館法改正による位置づけの変更や、美術品の資産としての側面について、時事の話題として取り扱いました。
⭐️ 受講生による授業評価
第8回の終了後に、TF担当回の体験についてアンケートを実施しました(N=33[1])。
定量評価設問(「TF担当回の受講体験はいかがでしたか?」:5段階評価)では、各段階に1〜5の値を割り振ると平均値 ⭐️4.6 の評価をいただきました。
| 評価 | 人数 | |
|---|---|---|
| 非常に良かった | 19 | 58% |
| 良かった | 14 | 42% |
| どちらともいえない | 0 | 0% |
| 悪かった | 0 | 0% |
| 非常に悪かった | 0 | 0% |
自由記述設問(良かったこと、印象に残ったこと、改善してほしいことなど、なんでも教えてください。)でも温かいご意見をたくさんいただきました。
コンテンツを制作していくうえでの現状について、様々なマインド面での知見とともに語られており大変興味深かった。
稲田さんのお話も学芸員の話や学生に近い立場からの話など面白く聞かせてもらいました。領域を跨いだ勉強ってやっぱ楽しいと感じる授業でした。
時間を確保するという点に非常に共感できました。私自身、時間と共に金銭的なハードルを言い訳にインプットから逃げてきた自覚があります。具体的には、都内の美術館や博物館に行かない言い訳としていました。しかし大学入学後周囲の友人が何の抵抗もなく時間とお金を投入しており、ここで差がつくんだなと気づきました。
これからデザインをやっていく過程において、どういったことを意識していけばいいかということが少し分かってきたのでありがたかった(展示会や、自分の好きなものをコレクションするということに興味が湧いた)。特に、学生の目線での課題の取り組み方など、先生方とは違った点で講義していただいて面白かった。
金先生の授業は実例を紹介して早速作ってみようという形であったが、稲田さんはアイデアを作るにはという制作の根本に注目してくださっているような気がした。
課題が面白かったです。特に展示の方法について注目する課題では、今までと違った視点で展示を見ることができ楽しかったです。
グループワークとして設定した課題の発表が明らかに好評だったのは意外でした。コミュ力を発揮しないといけないのは大変かな……?と思っていたのですが、逆に「前で発表するよりも気楽」だったり、さらには交流だと捉えていただいた方がいたのも印象深いです。
受講している生徒同士で制作してきたものについて検討する時間が良かった。
グループ発表ができたので発表の機会が一応全員にあったのがよかったです。普段の講義で発表できていないのでその分経験になりました。
他の講義や演習では他領域の生徒と話す機会もなかなかありませんでしたが、本講義では他履修生と交流する時間がたくさんとられていたことから、様々な分野での話をすることができとてもよかったです。
課題をグループワークで共有できたことがとても良かった。私は他学群の生徒だったので、友達も一人もいなかったし、そもそもめそうの授業自体初めてとったレベルだったので、周りの人たちが何を考えているのか知る機会があったのがとても嬉しかった。勉強になったし、興味深かった。
また、スライドのデザインを褒めていただいたコメントも複数件ありました。嬉しいですね。
アンケートの全件データはこちらからご覧いただけます。
☕ おわりに
TFを担当したい、と希望したのは稲田からなのですが、当初1回程度かな?と思っていたものが、先生からのご提案で3回分になるという衝撃の展開がありました。準備は大変だったのですが、この分量ならではの体系立てた講義が設計できたのは良い経験になりましたし、おおむね狙い通りの価値が提供できたように思われることはとても嬉しいです。
反省や経験をまた次の機会に活かしたいと思います。
履修登録者(56名)のうち、課題の提出状況から実質的な参加者を50名とすると、回答率は66% ↩︎