魅力あるデザインのための観察
自分の好きな本や映画といった作品について紹介するとき、あなたはどんな言葉を使って説明するでしょうか。ここでは、あるもののデザインをするために、モノの魅力をどうやって観察し、形にするのかを考えます。
モノの魅力を見抜くための観察
情報メディア創成学類の「情報デザインI」の授業では、グラフィックデザインやCG、そして、博物館・美術館・ギャラリーといった実空間における展示について取り扱いました。
グラフィックにせよ、展示にせよ、多くの場合、そこには何かモノがあって、その魅力を伝えるためにデザインがなされています。
デザインという言葉の説明のひとつに「価値ある目的を達成するための仕組みを計画すること」というものがあります。つまり、デザインの裏側には、何か目的や伝えたいメッセージというものが存在するはずで、ただかっこよく見せる技術だけではなく、その対象になっているものや、その魅力に対する深い理解が必要になるのです。
何かのデザインに取り組む時にも、こういったことにはどこかで気づくタイミングがあるのではないでしょうか。デザインをする時に、物をどうやって観察し、その結果をどうやって形にするのが良いのでしょうか?
感覚を言語に起こす
そういった自分が感じた対象物の魅力、観察の結果というのを、今回は「言葉に起こす」ということについて考えます。
言葉というのは何かの意味を表すのに、大変使い勝手が良い形です。様々なメディアに合わせて形を変えつつ、しかしその間も意味をあまり失わずにメディアを行き来できると思います。
しかし同時に、感じたこと・感覚を言葉に起こすというのは、とても大変なことでもあります。何か自分の好きな作品(映像だったり本だったり)に対してあらすじを書く、つまり「対象から直接表面的に読み取れること」をまとめるのは簡単そうです。しかし今ここで求められているのは、あらすじではなく、いわば帯の文を書くこと……つまり「表に出ていないコンセプトやテーマ」あるいは「作品そのものではなく、鑑賞者の側に浮かび上がる感情」を書くことです。
皆さんは自分の好きな作品の一番良いところというのを、どうやって言葉にするでしょうか?
さまざまな作品とことばの例
いくつか例を見ながら考えてみたいと思います。
スタジオジブリによる『となりのトトロ』をごらんになったことがあるでしょうか?主人公のサツキとメイは引っ越してきた里山で不思議な生き物のトトロと出会い自然とともに暮らし冒険します。例えば皆さんは『となりのトトロ』という作品の魅力についてどのように説明するでしょうか?
面白いことに、映画の公開時に書かれたキャッチコピーは今お話したようなストーリーには一切触れていません。
このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。
『となりのトトロ』という作品における魅力というのはストーリーそのものの内容を超えて「こういった不思議なことというのが、自分の身の周りでも起きるのかもしれない」と観客に思わせるようなところにあるのかもしれないですね。
言葉によって注目すべきポイントを解説するということもできます。奈良国立博物館が所蔵する十二神将立像の展示を例に挙げます。
十二神将というのは薬師如来を囲んで守る役割を持つ仏ですが、よく見るとそれぞれに何やら個性的なポーズや装いがあることが分かります。博物館ではこの作品について次のような解説文を設けています。
表情や身振りに少しずつ変化をつけながら軽妙にまとめる構成は巧みで、頭上に戴いた十二支獣の性格を面相に投影させる手法も効果をあげている。
作品の注目すべき特徴を示すことでより意義ある鑑賞ができるようになっているのではないでしょうか。
言葉によって示すのは「目に見えないもの」である、ということもあります。オランダの造形作家であるマーク・マンダースの展示「マーク・マンダースの不在」(2021)では、マンダースの、まるで粘土で作られたような大きな彫像が工事現場のようにビニールで覆われた会場に並びました。
彼は自分の作品のことを「建物としての自画像」と呼び、その言葉を使って作品について次のように述べています(PDF: 同展ハンドアウト)。
建物としての自画像は時間がすべて凍結しています。私の作品、私にとってすべての作品は同じ瞬間に存在します。
これを読むと途端に、会場に流れている時間、あるいは作品が静止して動かないこと、といった目に見えない「時間」という特徴に視線がいくようになります。
専門家ならではの視点を伝えるということもあります。人形劇団ひぽぽたあむは人形の中に直接手を入れて操作する「片手遣い人形」というものを用いる人形劇団です。
人形劇では複雑なカラクリや仕掛けがある人形が高度でやはり目を引きがちなのですが、この劇団の代表はこの非常にシンプルな人形の魅力を次のように語っています。
ひぽぽたあむの人形劇は人形の胴体に手を入れて使う片手使い人形で演じられます。人間の手が直に入っているのですから確実でしなやかな動きが生まれます。古くからある形式ですが、その世界は深く豊かで、心に直接届く力をもっています。
ひとつの技術を長く研究しているからこそ得られる深い洞察が端的かつ、とても易しい言葉で述べられている良い例ではないでしょうか。
言葉で語れるようになるために?
このように言葉を使うと、それがとても短く簡単なものであっても見る人の視点を変えより魅力のある体験につなげることができるわけです。ではそのような言葉でデザインをしたり……あるいはもっと気軽に……上手に感想を述べる、ということができるようになるためには何をする必要があるのでしょうか?
具体的なアクションを、簡単にですが3つに分けて提案したいと思います。
1️⃣ 細部に敏感になる
作品を観る際にその細部に対して敏感になること、細部を余さず掴み取る、ということが必要になります。これは、感想や解説というのは、細かく具体的な点について言及できているほど、おのずとオリジナルな視点を持つことができるからです。
具体的にやってみれることとしては、以下などができると思います。
- 観るときにとても時間をかけてみてみる
- スケッチをしてみる
- 時間を置いてからもう一度鑑賞してみる
「スケッチをする」というのは、美術が専門でない人にとってはあまり馴染みがないかもしれません。これはなにも完成品が上手である必要はなくて、形を写し取る過程で細部を見る、ということに意味があります。画家の山口晃はアーティゾン美術館での展示「ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」(2023)の際に美術館と交渉をし、館内の他の展示も含めて全館すべてスケッチができるようにした上で、「作品を深く見るためにぜひスケッチをしてみてほしい」と呼びかけていました。
2️⃣ 個性を探す
次に「個性を探す」ということ。ここでいう個性というのは、その作品の他と違う特徴のことであり、つまり他に同じようなジャンルの作品の中で、何がその作品を、その作品足らしめているのか、そのようなポイントを探すということになります。
これは必然的に、同じような作品を自分がたくさん観ていること・その作品の分野をよく知っているということが必要になるかもしれません。あるいはその作品のジャンルから遠く離れた分野との結びつきがある場合、それが個性であることもあるかもしれません。
3️⃣ 言葉に起こす
こういったことを意識しながら対象を観察した上で、初めて言語化に入るととても取り組みやすくなると思います。
三宅香帆『「好き」を言語化する技術』では言語化に関連したステップとして「魅力的だと思ったことを具体的にあげること」、そして「鑑賞のタイミングでメモを取ること」が挙げられており、これらも具体的なアクションとして有用であるように思います。
自分の感じたことを言葉に起こすということに取り組んでいると、それが自分だけの感覚なのか、客観的に言えることなのかがだんだん気になってきます。原則として、自分の意見が含まれることは恐れる必要はないと思います。感想や解説はその人が書いているからこそ意義があるということもあります。例えばその作品のことをすごく好きで、よく知り尽くしている人の意見だ、ということが価値があるということも、もちろんあるでしょう。
まとめ
今回は「魅力あるデザインのための観察」として、物の魅力を伝えるための観察と、それを形にするための取り組みについて紹介しました。特に、感想や魅力を「言葉」に起こすための方法について3つに分けて紹介しました。
(付録)クリエイティブ活動のための授業企画
今回ティーチング・フェローとして企画した授業の企画意図について少しだけご紹介をしたいと思います。
「情報デザインI」は、情報メディア創成学類の2年次向けに開講される授業です。稲田も情報メディア創成学類出身で、この授業を受講していたことがありますが、その経験から、「情報デザインI」の授業は、創成学類におけるアートのリテラシーの下支え的な位置にあると感じています。美学や美術史の基礎知識を、コンピュータグラフィックなどのテクノロジーに関連させながら学ぶことができる。また、写真やグラフィックデザインなどの作品制作に近い課題が出る。いずれも他の授業ではあまり見ない特徴です。
こうした感覚から、特に学生の目線を生かして、この分野において当時、自分が知りたかったことに触れられるような企画を行いました。
学生目線での授業企画
情報メディア創成学類は、学生が自主的なクリエイティブ活動を展開してきたことに大きな特徴があると思っています。例えば以下のようなことが、全て学生の自主企画により活発に行われてきました。
- グループでの作品制作・展示の企画
- ノウハウや知識を共有するための勉強会・ライトニングトークの開催




そして稲田はまさに、こういった環境の恩恵を受けて個人の活動の場所を広げてきました。結果として現代美術の分野で全国的な賞をいただいたり、また専門的なクリエイティブの実務の機会を得たりといった経験を積むことができました。
「情報デザインI」におけるティーチング・フェローとしての授業の企画は、こうした経験から、クリエイティブに取り組まんとする学生にとって役立つのではないかと考えた要素をさまざまに含めました。
- クリエイティブ活動に初めて取り組む時に知りたかったこと
- どうやって他者の作品から学んでいくのか
- 自分の創作の取り組みをどのように実績やさらなる活動機会につなげていくのか
- 創成学類のコミュニティだけでは得づらかったこと
- リアルの空間で展示を作り上げていく知識やスキル
こうした企画がクリエイティブに興味のある学生にとって一助になればいいなと思っています。